『小さいおうち』(2014)

中島京子の直木賞受賞作品を山田洋次監督が映画化した作品。この映画に出演した黒木華が第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞したことでも話題になりました。
公開は2014年1月25日。公開からちょうど1年経ってWOWOWで見た感想です。

内容に著しく触れますので、作品鑑賞後に読んで下さい。

フィルムにこだわった山田洋次作品

山形から上京したタキ(黒木華)がモダンな赤い屋根の小さな家に女中奉公することになる。家は玩具会社役員の平井(片岡孝太郎)と妻時子(松たか子)息子の恭一の三人が住む家に住み込みます。ある日玩具会社の新社員板倉(吉岡秀隆)がやってくる。やがて板倉と時子がお互いに惹かれ合うのをそっと見守っていたタキが晩年(倍賞千恵子)大学ノートに自叙伝としてしたためる。
タキの死後、晩年世話していた健史(妻夫木聡)に残した遺品にその大学ノートがあり、回想する形で描かれています。

タキの晩年と死後に遺品のノートを読む現代、平井家に女中奉公していた戦前戦中の回想シーンのふたつの時代設定があります。

フィルムにこだわった山田洋次監督が本作もフィルムで撮っていますが、現代と回想シーンとでは画面の色が違います。なので画面を見るだけで現代なのか回想シーンなのかがわかるように撮られています。回想シーンがフィルムの雰囲気がより高く出ていると思います。

セットで撮った映画

ラストシーンはタキの死後、重要な人を訪ねに行くシーンはロケ撮りですが、そこを除いてすべてスタジオセットで撮られています。特に回想シーンはセットであることがわかるように撮っていると言えます。赤い屋根の小さい家はいかにも絵本のような造りになっています。

それはセットの予算をけずったからなんだかちゃっちく見えるというのではなくて、わざとセットとわかるように作っていると考えられます。その理由がはっきりとわかるシーンが後半ラスト間際に出てきます。健史が恋人のユキ(木村文乃)と書店に行ってユキからバージニア・リー・バートンが書いた絵本『ちいさいおうち』に描かれている家が平井家の赤い屋根の家にそっくりなんです。映画では屋根が赤い家なのに対して絵本では壁が赤く、屋根の勾配も似た雰囲気です。だから絵本のように、ファンタジーのように描こうとしているんだなということがわかります。回想シーンの最後、小さい家が空襲に遭うシーンはミニチュアで撮影されていて、まるで絵本のなかのちいさいおうちのように描いていると見ることができます。

信用できない語り手

映画の現代のシーンで、タキが大学ノートに書く原稿を健史がチェックするシーンがいくつかあって、当時はこうではなかったはずだから嘘ではなくて本当のことを書くようにと諭すシーンが何度か出てきます。そういうところがヒントになっていますが、回想シーンはすべてタキによって語られています。つまり「信用できない語り手」なのです。
私たちにはタキの回想を裏付ける証拠がひとつも提示されていません。
平井夫妻は防空壕のなかで死んでいたとなってるし、板倉もすでに故人であるようです。健史が死後唯一出会えた平井家の息子(米倉斉加年)も盲目になっており、映画で最も重要な手紙の筆跡を確認できません。手紙を書いたのは一体誰なのかわからないのです。

タキの回想録と数枚の写真以外に残っている証拠は、部屋の壁に掛かっていた赤い屋根の「小さいおうち」の絵だけで、もしかしたら赤い屋根の家すらも実在していなかったんじゃないかと考えることもできるます。

おそらく、この映画そのものがおとぎ話として撮られているようです。だから回想シーンはすべてセットで撮られていたんだなと納得します。
戦争の大変な時代であっても人間らしく生きていた人もいたんだよというおとぎ話なのかもしれません。

これに似た物語として思い当たるのが宮崎駿の最後の長編アニメ『風立ちぬ』かもしれないです。
主人公の二郎は妄想のなかで生きているような男でした。

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