『キャロル』(2015)

オープニングから強烈に惹きつけられます。美しい鋼製グリルのアップが映し出され『めぐりあう時間たち』のフィリップ・グラスにかなり似たピアノ曲が流れてくるんです。これは意図的に似せたものを使っていると思います。
2002年のスティーヴン・ダルドリー監督の『めぐりあう時間たち』というぼくの大好きな映画があるんですが、これは3つの時代が交差した物語で、その3つというのは1923年と1951年と2001年です。『キャロル』は1952年の物語で『めぐりあう時間たち』のひとつの時代と同じなんです。『めぐりあう時間たち』の1951年のストーリーはジュリアン・ムーアが演じるローラという普通の主婦が一見幸せそうな家を出ようとするもので、表面だけを見ると同性愛のストーリーに読み間違えるものなんです。『キャロル』でその映画に似せた音を乗せることでストーリー上は単なる同性愛の葛藤を描いているのではなく、もっと深い愛の物語であることを宣言しているように見えました。
ファーストショットに移された鋼製グリルからカメラはゆっくりと上に移動していくと、そのグリルは地下の排気口のグリルであることがわかります。上空へ舞って夜の街路から街灯を写すと止まり、次のシーンに移ります。地上では語れない心の叫びを描いているように見えます。
台詞は少なく、繊細な視線の動きでお互いの愛を読んでいきます。1952年当時に撮ったような色合いがとても美しい。
舞台になっている1952年のアメリカで同性愛は精神病でした。薬物投与だけでなく重病患者の場合はロボトミー手術が行われることもあります。頭蓋骨に穴を開けて脳の一部を切除するというものです。そんな時代に自分の気持ちを貫くことはむつかしい。そういう深い映画と思います。

原題 Carol
監督 トッド・ヘインズ
出演 ケイト・ブランシェット
   ルーニー・マーラ
音楽 カーター・パウエル
撮影 エドワード・ラックマン
上映時間 118分

公式サイト http://carol-movie.com

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