『心と体と』(2017)

最近なぜだか鹿が気になる。
『スリー・ビルボード』(2017)でフランシス・マクドーマンの目の前に現れた鹿に話しかけるシーンがありました。
『クィーン』(2006)ではエリザベス2世(ヘレン・ミレン)が領地で鹿と出会いしばらく見つめ合うというシーンがありました。
あと、最近見た映画でいくつかの作品で鹿が出てくるものがあり、たまたまカメラに映ったというのではなく意図的に映しているというものでした。
『スリー・ビルボード』では亡き娘の化身として、『クィーン』では事故死したダイアナ妃の化身のようにも見える出場をしてます。

ハンガリー映画の『心と体と』ではいきなり鹿が出てきます。それも雄と雌の一頭ずつ。ストーリーが進むごとに何度も鹿のシーンが入ってきます。それがただ撮っているという感じではなくまるで会話をするようです。とてもいい雰囲気です。見ているだけで微笑ましい。こんなシーンどうやって撮ったんだろうと思います。

2頭の鹿は主演の若い女と中年の男の夢の中だということがわかります。
現代風にたとえると(といってもこれも現代映画なんだけれど)ゲームの世界に登場させるアバターが鹿になっているといえば近いのかもしれません。

中年男は片手が不自由です。左腕がまったく動かない様子です。
若い女は極度な几帳面さと恐るべき記憶力と他者との接触を嫌う自閉症に近いキャラクターです。この不完全な男女が共通の夢で出会うことから現実の世界にどう決着していくかというストーリーだと言えます。セリフが少なく静的な映像に引き込まれていく名作です。

この男女が出会うのが上司と部下になる職場が舞台になるんだけど、それが食肉処理場なんです。生きている牛が牛肉となる過程をしっかり見せます。映画館のスクリーンで見るとちょっと残酷に見えそうです。ドキュメンタリー映画の『いのちの食べ方』でたしか見たようなほとんど機械化された処理ではなく、意外と職員が素手で牛を触って切断したりしていました。こういうところで働くには牛を命と思って見ていたらやってられないなあと思っていると、就職面談のシーンがあり、入社希望の男が「全然平気っす! いくらでも殺せますよ!」的な発言をすると「そういう人がこの仕事をすると心が壊れるから無理だ」的な返事をします。あれれ、逆なんや。

監督・脚本はイルディコー・エニェデイ(ハンガリーは日本と同じ姓名の順なのでエニェデイ・イルディコー Enyedi Ildiko となります)でこの作品で第67回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を獲得しています。

鹿が気になると思っていたら『籠の中の乙女』の監督の最新作のタイトルが『聖なる鹿殺し』でした。2019年3月公開予定。

公式ホームページ▶︎https://www.senlis.co.jp/kokoroto-karadato/
Facebook ページ▶︎https://www.facebook.com/kokoroto.karadato/
IMDb▶︎https://www.imdb.com/title/tt5607714/


次ページはネタバレではないのですが、かなり大胆な論をご紹介しますので、映画をご覧になった人限定で、興味のある人のみご覧ください。