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今回も映画のお話です。
「レバノン」というタイトルの戦争映画。
レバノンと聞くと、なんだかいつも戦争しているような印象がありますね。
前回の記事にも取り上げた映画「灼熱の魂」もレバノン内戦が物語の核になっていました。
イスラエル、フランス、ドイツの合作で、台詞はアラビア語がメインだと思います。ヘブライ語も出てきたのかもしれません。いや、逆なのかなあ。たまに英語が出てきます。アラビア語とヘブライ語を聞き分けていた訳ではありませんが、どうもそのようです。はっきり言ってまったくわかりませんでしたので100%字幕頼りです。はい、英語でももちろん100%字幕頼りなんですけれども。
作品はレバノン戦争が題材になっています。はじまってすぐに「1982年6月6日」と出てきます。
かといって、この1982年6月6日という日付にどういう意味があるのかということや、どういう背景でその戦争が起こったのかなどの歴史的背景や基礎的な知識はまったく知らなくても鑑賞できるように作られています。
もっというと、メインの登場人物も自分たちが何の目的でこの戦争に駆り出されているのかよくわかっていないという設定になっています。そのあたりの具体的な説明はなかったと思いますが、軍からお前はいまからこの戦車に乗れ、あとは指示に従えということのようです。
たぶんそんな経緯があって4人の若い兵隊が1台の戦車に乗り込み、無線からの指示に言われるがままに行動していくというストーリーです。
主役の戦車に乗っている4人の若者の視線で映画が撮られています。
つまり、暗く狭い戦車の室内でのシーンがすべてになっていて、外の状況は戦車内のモニターのみで覗き込むという演出手法をとっているのです。
こういう映画ははじめてみました。
これまでは戦車を外から撮るものがほとんどで、歩兵と戦車が並列化され、戦車がひとつの人格のように目に映っていました。じゃあ実際その戦車のなかはどうなってんのというところまでは知らずに、あるいは特に知る必要もなくスルーしていたんだなあということにまず気づかされました。
しかも、表情がまったく外に見えない状況なので、例えば砲撃を受けてもなかでせせら笑っているのかびびって震えているのかがわからない。で、人一倍破壊力の優れた大砲を持っている。
外部の状況が潜望鏡(専門的なことがわからないのですが、多分一般名詞的なことばでいうと潜望鏡というのがいいのではないかと思ってそう呼ぶことにします)で覗いた視界のみでつながっているということは、概念的にも構造的にも外部と内部が分離してしまっているということになるんですが、その潜望鏡にレンズ機能がついているためにちょっと別の作用が働くんですね。つまり、視界は思いっきり狭いために、かなり映像的な世界でしか外部を把握できないんだけれど、拡大することで、標的がかなり生々しく迫ってくる。肉眼ではあり得ないほど目の前に見える。これは、逆に怖いなと思いました。遥か遠くの標的を肉眼で狙って発砲するのと違って目の前の標的に爆撃を行なうという恐怖感があります。
人を殺すことはどういうことなのかをリアルに体感できる。それを潜望鏡という眼差しと映画のスクリーンがシンクロするという意味ではかなり優れた手法だなと思いました。
はじめの方に、前方から敵なのかそうではないのかわからない車がやってきて、無線からその車を撃つように命令されます。自分としては敵じゃないかもしれない人に対して撃つのはいかがなものかと躊躇してしまう。その考えている間に見方の歩兵が撃たれて死んでしまう。お前が一発撃たなかったせいで見方が一人死んだやんけ、どないしてくれるねん、次から迷うことなく撃て言われたら撃たなあかんで、とこっぴどく怒られる。見ているこちらも、そんなもん撃たなこっちがやられたらあかんやんと主人公たちにちょっと苛つく。
でも、人がいいのか単なる臆病者なのか、自分の手で人の命を奪いたくないという。いや、そんなんやったらお前がなんで大砲係やってんねん、という話にもなる。さらに苛つく。そうして内部で4人の意見が食い違ってくることで、なんだかヤバい展開になってきそうになる。一応の長はいるものの実際にはリーダーシップがなくって頼りない。お前がそんなんやったら全員死ぬで、と苛つく。
しかしながら戦争という大義名分があっても人を殺せない。それは至ってまともな人なんだけれど、「正義とはなにか」とサンデル教授的なディベートを繰り広げている暇もない。そうしているうちに撃ち込まれるかもれいない。上司の命令を待ってみてもそれが正しい答えなのか、たとえ正しいとしてもそのなかに自分たちの死が内含されていたらどうするのか、と苛つきながらいろいろと考えを巡らせる映画となりました。
エンディングにはじめて彼らの乗る戦車の外観が映されます。とてもいい映像で締めくくられています。
この作品「レバノン」は2009年9月12日に発表された第66回ベネチア国際映画祭コンペティション部門の最高賞金獅子賞を受賞しました。
関連サイト
http://jp.reuters.com/article/entertainmentNews/idJPJAPAN-11473820090913 - ¥5,040
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