『エリジウム』(2013)


ニール・ブロムカンプ監督の傑作SF『第9地区』に次ぐ作品です。本作品ではなんとマット・デイモンが主演し、ジョディ・フォスターも出演します。すごいグレードアップです。
地球環境が悪化したために超富裕層がスペースコロニーに居住し、そこに住めない人々が劣悪な環境下の地球でスペースコロニー監視下で貧困に喘ぎながら暮らすしている、という近未来SFにありがちな設定です。
ぼくが好きな映画『ブレードランナー』でも地球がディストピアと描かれていますが、同じロサンゼルスが舞台で時代設定も含めてその延長線上にあると言えます。
さらに遡ると、階層化された社会の分断を描いた傑作SFに『メトロポリス』があります。こちらは地上の超高層に住むブルジョア層と日も当たらない地下で奴隷のように働かされる労働者階級に二分して描いています。
映画ではしばしば現実社会への問題提起としてSFやホラーという表現形式をつかいますが、本作もそうです。
本作は医療問題が主題ですが、かなりわかりやすいかたちで表現されています。
前作『第9地区』では南アフリカのアパルトヘイト政策をエイリアンという形で表現していたのに対し、『エリジウム』は高度に発達した医療はつまるところ金持ちのためにしかないと言う物語です。
その主題については、映画を見ればだれでもわかるレベルで描かれていますので、今回は別のところについて少し触れたいと思います。
『第9地区』をご覧になった人はわかると思いますが、ニール・ブロムカンプは恐らく趣味として戦闘機や兵器が好きなんだなと思います。
そこはあまり詳しくないためにぼくは書けませんが、2作を通じてかなりリアルに表現していると思います。共にスラム街が舞台となっていますが、その中古っぷりやぼろぼろ具合が共通している気がします。
また、本作で表現されているものに、パワードスーツとスペースコロニーがあります。
パワードスーツが映画で初めて登場したのは1986年ジェームズ・キャメロン監督作品『エイリアン2』ではないかと思います。
『エイリアン2』ではパワーローダーという進化したフォークリフトのようなデザインで出てきますが、そのフォークリフトをパワードスーツとしてエイリアンと闘うためにシガニー・ウィーバーが装着します。
スペースコロニーもかなりしっかりと描かれています。ぼくが注目したのは、オープンエアでそのまま宇宙空間に開放しているというところです。遠心力を利用して大気層をつくっているんだとわかりますが、このスペースコロニーについて勉強しておくべきだと思いました。

あと、近未来のディストピア社会を描く上で必要不可欠な高度に管理化された社会についてもかなりわかりやすく表現されています。一例は、冗談の通じないロボットのような役人たちをそのままロボットとして登場しています。
そして、この映画で描かれていることは、残念ながらSFという絵空事ではなく、視覚化されていないだけで、既に現実になっています。
舞台は2154年ロサンゼルスですが、これはSFではなく、現実社会を少しだけディフォルメした物語であるといえます。