月別アーカイブ: 2014年8月

『インポッシブル』(2012)

2004年12月26日に起きたスマトラ沖地震後の津波に遭遇したある家族の実話をもとに描かれた映画です。
津波を体験するということはどういうことなのかを実感できる映画です。日本では東日本大震災で起こった津波の映像をNHKなどで多くの人が見ていると思いますし、実際に体験した人の話を聞くことも少なくないと思います。しかしながら、見聞きするものと体験することの間には大きな違いがあります。
この映画はその両者の大きな隔たりをかなり近くしてくれるものになっていると断言します。

実際に津波に遭うということはどういうことなのか。
津波が引いた後はどうなっているのか。
助かった後、体にはどんなことが起こるのか。
その後人間はどういう行動をとるのか。

そういうことを克明に表現してくれています。

津波に関していろいろ見たり聞いたりするよりは2時間足らずのこの映画を見る方がいいと言い切ります。
最近よく見る「事実に基づく物語」というタイプに入るものになるのですが、この映画は見る人の経験にかなり近いものを与えてくれると思うからです。
そして、災害後に起きる物語に津波にも勝る感動的なシーンが幾度となく出てきます。

映画は、日本で働く一家が年末休暇にタイに行き、災害に巻き込まれる物語です。ユアン・マクレガーとナオミ・ワッツが夫婦役の三人の子供のいる家族が主演です。
ナオミ・ワッツは本当に巧いと思います。かなりハードな役だと思いますが彼女の演技がよりリアリティーを高めてくれていると思います。

ユアン・マクレガーとナオミ・ワッツ出演なのでハリウッド映画と思っていると、ちょっと映画の雰囲気が違うんです。調べてみると監督以下スタッフィはスペイン人で、スペイン映画でした。

オフィシャルとは思えない簡素な作りの公式サイト(http://impossible-movie.jp)にはメイキングのYouTubeが載っています。次にリンクを貼っておきますが、1/2スケールミニチュアを製作して撮っているシーンなど、フルCGとは違って手作り感溢れる特撮風景が紹介されています。


リドリー・スコット最新作『悪の法則』のブルーレイのオーディオ・コメンタリーで知ったのですが、スペインは国策として映画に力を入れているそうです。
スペインでスペイン人を雇用して外国映画を撮影すると補助金が出るそうです。詳しい条件はわかりませんが、リドリー・スコットによるとスペインロケを行ったために映画の予算が増えかなり助かったということらしいです。『悪の法則』にハビエル・バルデム、ペネロペ・クルスのスペイン人夫婦の俳優が出演している理由はもしかしたらそこにもあったのかもしれません。
話を『インポッシブル』に戻すと、もしかしたらこの作品も同じ理由でスペイン・アメリカ合作なのかもしれません。
推定の話はさておき、教育的作品として必見の映画だと思います。

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『GODZILLA ゴジラ』(2014)


予告編を何度も見て、期待値がどんどん高くなり、見る前から自分の中でハードルを高くしてしまったために、本当はそこそこの傑作なのに評価が下がってしまうことがあります。
でも、今回の『GODZILLA』は大丈夫です! そんな高いハードルを軽々と超えてくれました!

一番しびれたのはゴジラの叫び声です。
これまでのいろんなサントラのなかでも群を抜いて凄い叫びでした。
他のどんな音とも質が違います。
特別な周波数が複雑に組み合わさったその叫びはわれわれに何かを訴えているようにも聞こえます。
怒れる神の声を表現しているに違いない。
今回のゴジラはその英語標記にある通り”GOD”として描かれているんだということが想像できます。
ストーリーでもそういう解釈をしていると言えます。

ゴジラ本体のデザインも東宝ゴジラの愛らしいキャラクターを継承しつつも新しいゴジラ像にチャレンジしています。
徐々にアニメキャラ化して頭が大きかったプロポーションに比べて、頭が小さくなり、子供受けの表情からきりりとした表情に変わったように見えます。
繊細な表情をすることで、ゴジラに感情移入できるようにもなっています。

つまり、レジェンダリー・ピクチャーズは本気でゴジラを造ってくれたということなんです。
製作総指揮の名前に”YOSHIMITSU BANNO”という名前がクレジットされていますが、この坂野義光は1971年の『ゴジラ対ヘドラ』の監督脚本を手掛けた東宝の重役だった人です。坂野義光を介してレジェンダリー・ピクチャーズは東宝に対してゴジラ生誕60周年に相応しいゴジラになっているかチェックを受けているようです。

トーマス・タルが2003年に設立した映画製作会社のレジェンダリー・ピクチャーズ(Legendary Pictures)はこれまで『ダークナイト』『マン・オブ・スティール』『パシフィック・リム』を製作してきたことから、子供向けや漫画のキャラクターを徹底的に現代社会のリアリティーを追求して、作り直すことを行なってきていると言えます。
つまり1954年に発表された『ゴジラ』第1作をどのように60年後の現在に受け継ぐのかということをかなり意識して作られています。
先に書いてしまうと、全体的に第1作へのリスペクトとゴジラそのものにたいする愛にあふれた作品になっていると強く感じました。
一番わかりやすいところでいうと、ほとんど主役級の重要な登場人物で渡辺謙が演じる博士の名前は “ISHIRO SERIZAWA” です。
漢字にすると芹沢猪四郎。
これは1954年の『ゴジラ』の監督本多猪四郎と最も重要な登場人物である科学者の芹沢大助の名前を合わせたものです。
最も重要な台詞の多くはこの芹沢博士だけが語ります。それくらいに重要な人物として描かれています。

そしてゴジラというキャラクターを考える上で避けて通れないものは「原子力」です。
そもそも1954年の『ゴジラ』が作られたのは1954年3月1日にアメリカが行なったビキニ環礁での水爆実験によって日本のマグロ漁船である第五福竜丸が被爆したことによります。
志村喬演じる山根博士が、度重なる原水爆実験によって太平洋海溝に異変が起き、ジュラ紀の生物である恐竜が蘇ったのだと自説を語るシーンがあります。
今回はその説を継承しつつ新しいアイディアを盛り込みました。そこはさすがレジェンダリー・ピクチャーズだなと感心しました。
その部分はオープニングクレジットのシークエンスで見事に表現されています。
不都合な真実は伏せ字で隠蔽されているということと隠蔽を実行するために原水爆実験が行なわれたと言う設定にしているんだなというのが読めてきます。
細かく説明すると、第1作ではゴジラの死とその死骸が回収不可能となったことで山根博士の説を裏付けることができていません。あくまで推測ということになっています。テレビ通販にある「個人の感想です」レベルです。それから60年経過した今、しかも原水爆実験を行なった側であるアメリカだからわかることがあるという設定になっています。

そしてそのオープニングクレジットのシークエンスを見ることで、前半ゴジラがしばらく登場しなくても私たちは待つことができます。
じらせばじらされるほど期待感は高まり、どう登場してくれるのかをわくわくして待つようになっています。
そしてついに登場するシーンでも見せ方がめちゃくちゃ上手い。うわーギャレス・エドワーズ天才や!と思います。
カメラが動く速さ、見える視野の広さなど完璧といえるくらいに巧いのです。バンザーイ!です。
もうこれ以上はいちいち書きませんので実際に見て下さい、と言いたいです。

話を少し戻してゴジラと原子力の話。
1954年3月1日に起きた第五福竜丸被爆事件から9か月後の11月3日に『ゴジラ』は完成しています。脚本は5月第1週に書かれたということですから製作期間はわずかに半年です。
当時の日本映画は敗戦後経済援助を受けていることから直接口にしにくかった反原水爆を怪獣映画と言う表現で行なったと言えます。
そして日本は2011年3月11日に東日本大震災から福島の原子力発電所の重大な事故が発生してから後、60年前のように日本映画界はなにかを表現したのかと言う問いに、日本映画界ではなくハリウッド映画が大胆にチャレンジしたと言えます。
ストーリーはまずは日本の原子力発電所がメルトダウンするところから始まり、津波を表現しているシーンもあります。
またぼくがすごくいいなと思ったのが、なんでもかんでも電子制御されてしまっている現代社会を痛烈に皮肉っているシーンがあって、その表現はかっこいいんです。

特にゴジラ生誕60周年と言う記念すべき年に日本からではなくアメリカで製作され、しかも全世界的に大成功を収めたのは嬉しくもあり、やや寂しくもあります。

日本で始まり、途中ハワイを経由してサンフランシスコに渡すと言うこのストーリーもゴジラと言う日本を象徴するアイコンがアメリカに上陸すると言う話でもあります。

見終わった感想のひとつに、実際に全世界で興行的に大成功したんだけれど、本当の意味で欧米人はこの『GODZILLA ゴジラ』を受け入れてくれたんだろうかとも思いました。
映画全体に東洋的あるいは日本的な思想を色濃く反映しているからです。
ゴジラに似たタイプのSF大作映画と言えばたとえば『アルマゲドン』のように人類(もしくはアメリカ人)に重大な被害を与える未知の怪物に対して戦うというパターンでは、最後は人類(あるいはアメリカ人)の知恵とテクノロジーによって克服するというものがほとんどです。というか全部そんなんです。
その根底には「人間が一番エラい!」という考え方があります。
神は自分に似せて人間を作ってその人間のために自然やら動物やらつまりは世界はあるとうい旧約聖書の物語があるからです。
もしこれまでのハリウッド映画であれば、なんとかしてアメリカ軍なり政府なりが解決するというストーリーになっていたと思いますが、今回はそういう考え方よりも、自然界に人間も住まわせてもらっているという日本になじみの深い考え方にかなり寄っているからです。
なので、もしそういう考え方も含めて受け入れてくれているとすれば、ゴジラがアメリカに上陸してもいいんだと思えます。

いろいろ書きましたが、そんなことはどうでもいいくらいに面白い映画です。

8月はくだらない映画ばかりでこの『GODZILLA』以外に見る映画なんかありませんので、ぜひ劇場で迫力あるゴジラの叫びを聴いて欲しいと思います。