『地獄の逃避行』(1973)

『トップガン』や『クリムゾン・タイド』などの大ヒット映画を監督したトニー・スコットの代表作のひとつ『トゥルー・ロマンス』はで1993年9月10日にアメリカで公開されました。トニー・スコット作品の中ではぼくが最も好きな作品です。

この映画の魅力ひとつが音楽であり、なかでも繰り返し流れるハンス・ジマーによる「You’re So Cool」というシロフォンによるチャーミングなテーマ曲があると言えます。

先日、WOWOWでテレンス・マリック監督のデビュー作である『地獄の逃避行』を見て驚きました。桂三枝(今の桂文枝)による長寿番組「新婚さんいらっしゃい」ごとく椅子ごと転げるくらいの驚きでした。オープニングに流れる曲が「You’re So Cool」なのです。いや、少しアレンジは異なるものの同じ曲と言えます。
調べてみるとドイツ人作曲家カール・オルフ(Carl Orff : 1895.07.10 – 1982.03.29)の「Gassenhauer」という曲で、オルフが「子供のための音楽」(ムジカ・ポエティカ:Musica Poetica)として作られた作品群 Orff Schulwerk のひとついうことがわかりました。「Gassenhauer」とは英語で言うと「Street song」という意味になるようです。

『トゥルー・ロマンス』と『地獄の逃避行』は音楽だけでなく多くの類似点が見られます。
『トゥルー・ロマンス』は『地獄の逃避行』へのオマージュとして撮られている作品なのです。

では、この『地獄の逃避行』とはどういう映画なのでしょうか。

アメリカで1973年10月15日に公開された原題 “Badlands” という邦題『地獄の逃避行』は1958年にネブラスカ州で実際にあった「スタークウェザー=フューゲート事件」というスプリー・キラー(Spree killer)を題材にしています。主演はマーティン・シーンとシシー・スペイセク。撮影は後に『羊たちの沈黙』を撮るタック・フジモトの初撮影作品です。

物語はジェームズ・ディーンそっくりの25歳の清掃員キットと15歳の少女ホリーが出会い恋に堕ちます。交際をホリーの父に反対されたことで、キットがホリーの父親を射殺することを発端に、その後キットが表情ひとつ変えずに出逢った人を次つぎと殺していく逃避行を描いたロードムービーでありバイオレンス映画という側面もあります。映画ではしばしば常軌を逸した残虐性を耽美的に映像化されますが、本作はその典型と言えるのかもしれません。

邦題の『地獄の逃避行』は主演のマーティン・シーンがその後『地獄の黙示録』で有名になったためにコマーシャル的に付けられたものです。スティーヴン・セガールの出演作を『沈黙の〜』とするみたいなものでしょうか。
原題『Badlands』ですが、これは地質的なことばで、広義には地質・地形が悪く農業や宅地開発に適さない土地という意味で、狭義ではWikipedia(悪地)によると結合度の低い堆積層や粘土層などが風雨により極度に侵食され、峡谷状の涸れ谷になった荒地のことで組織地形の一種であるそうです。北米では一般に知られていて、元はアメリカのサウスダコタ州にあるバッドランズ国立公園となっている地域を、先住民のラコタがマコシカ(Makhóšiča)と呼んでいたことに由来しているそうです。
そのタイトルのとおり、都市風景的なものは後半から出てきません。地平線まで望める砂漠のような荒地をバックに撮られているシーンが続きます。これは主人公キットの心情をメタファーとして表していると思います。
また、同時に映画の冒頭では言葉の通りに「悪い土地」という意味で語られています。

 

『トゥルー・ロマンス』との類似性について

『トゥルー・ロマンス』が『地獄の逃避行』を倣っているのはテーマ曲だけではありません。映画が主役の恋人によって語られているというだけでなく、そのナレーションの口調もよく似ています。ストーリーにも類似性が多く、かなり意識されたということがわかります。

また『トゥルー・ロマンス』ではクリスチャン・スレーター演じる主役のクラレンス・ウォリーの父クリフォード・ウォリーをデニス・ホッパーが演じています。デニス・ホッパーは『理由なき反抗』と『ジャイアンツ』でジェームズ・ディーンと共演しており、実際友達だったという逸話が残されています。このキャスティングには『地獄の逃避行』のキットが劇中では『理由なき反抗』のジェームズ・ディーンそっくりであるということが関係していそうです。

サウンドトラックを見てみると、チャーリー・セクストンが「Graceland」という曲を提供していますが、原題の『Badlands』に呼応したタイトルではないかと考えられます。

 

『テルマ&ルイーズ』と『セブン』

『地獄の逃避行』は『トゥルー・ロマンス』だけでなく多くの映画の元ネタになっていることが見るとわかってきます。
『トゥルー・ロマンス』が公開される2年前の1991年5月24日にトニー・スコットの兄リドリー・スコットが撮ったロードムービー『テルマ&ルイーズ』にも『地獄の逃避行』へのオマージュが見られます。

ストーリー上では借りたことになっている盗んだキャデラックに乗ってパトカーから逃げるシーンは『テルマ&ルイーズ』の多くのシーンにそのまま生かされています。

『トゥルー・ロマンス』がロサンゼルスの比較的都市化されたエリアでストーリーが進むのに比べて、『テルマ&ルイーズ』ではテキサスの広大な大地を背景に撮られているシーンが多いです。そしてそのサントラを見ると同じくチャーリー・セクストンが「Badlands」という曲を提供していること、後に『トゥルー・ロマンス』へも出演するブラッド・ピットが出演していることなどから、『テルマ&ルイーズ』から『トゥルー・ロマンス』へバトンが渡されているようにも読み取ることができるかもしれません。

そして、『トゥルー・ロマンス』から2年後の1995年9月22日に公開されたブラッド・ピットの主演作であり彼の出世作とも言える『セブン』のラスト近くで荒野に行くシーンはカメラワークや色調もそっくりのシーンが出てきます。この監督デヴィッド・フィンチャーはリドリー・スコットの『エイリアン』の第3作『エイリアン3』で映画監督としてデビューし、この『セブン』は彼の2作目となる作品です。『地獄の逃避行』とテーマ性は異なるものの、こちらも連続殺人をテーマにしてますね。

恐らく、この『地獄の逃避行』へのオマージュとなっている映画作品は他にも多いようなので、もしも見つけることができればここに付け加えていきたいと思います。

 

『ブレードランナー』小ネタ|ヌードルバーのシーン

『ブレードランナー』オープニングのヌードル・バー「ホワイトドラゴン」でのシーン。
ガフがデッカード(ハリソン・フォード)に後ろから声を掛けるシーンですが、最後の台詞をよく聞いてみると、こう言っているように聞こえます。

 「キャプテン・ブライアントとか。メニオマイヨ」

これを英語表記に書き下すと、
 ”Captain Bryant toka, me ni omae yo”
どうも、ガフの台詞の音の切り方と言葉の切り方がずれているようで、ここは、

 ”Captain Bryant toka me. Ni omae yo.”

と表記するのが正解に近いようです。
第一文は、”Captain Bryant talked to me” が訛っているっぽいです。もしかしたら他言語かもしれませんけれど。
第二文は、もうお分かりと思いますが、日本語ですね。
「に おまえ よ」=「お前に用」の主語と助詞が倒置されています。
「キャプテン・ブライアントが『お前に用がある』と言っていた」という台詞なんですね。